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金継ぎと、3.11

「震災で壊れた器がどうしても捨てられなくて、ずっと持っているんです」

 

そう言って、金継ぎ教室に問合せや参加をしてくださる方が沢山いらっしゃいます。

 

8年経っても・・・と言う人もいるかもしれません。

でも時間の長さは、あまり問題ではないように感じます。

 

その人にとって、

その器は、思い出の中で壊れていない。

壊れていないから、何年経とうと捨てる必要がないのです。

 

知人からリクエストがあって

始めた金継ぎ教室でした。

正直な話

金継ぎの知識も経験も全く十分とは言えないまま

とりあえず、という感じでスタートしました。

 

いざ、始めてみると冒頭のセリフを聞く回数の多いこと。

思い出や、記念の品を捨てられない方の多いこと。

 

そうした器をご自身の手で直すことは

時間を取り戻したり、

記憶を繋ぎとめたりする作業にもなります。

 

微力ながらそのお手伝いができるとしたら、

金継ぎは私が考えていたよりもずっと、

意味のあるお仕事なのかもしれないと、

思い始めています。

 

でもね、矛盾するように聞こえるかもしれないけれど

お直しをすればするほど、

「壊れたものは、決して元に戻らない」

というシンプルな事実を再確認させられます。

 

割れたもの同士をくっつけても、

目に見える形状、目には見えない強度、

それらをひっくるめた、「バランス」とでも呼ぶべきようなもの-

は、永遠に失われたままです。

「再生」はできるけど、原状回復ではない。

 

だから、大切なものは、壊れないようにしなくてはいけない。

いたってシンプルな話。

 

『壊れた』でも『捨てられない』

そして

『ずっと持っている』。

 

器に限らず、モノに限らず、

人生にはそういうものが、けっこう、

あったりするんじゃない?

と思うわけです。

 

それもまた、いいんじゃない?

自宅アトリエの窓辺に置いた金継ぎのマグカップ
自宅アトリエにて